人間学を学ぶ月刊誌「致知」(2020年10月号 致知随想より)
人間は自然の一部
池上知恵子(ココ・ファーム・ワイナリー専務)
“栃木県足利市の山の麓にあるココ・ファーム・ワイナリーの葡萄畑は海抜200m 平均斜度38°の急斜面に広がります。
そこには9200本の葡萄の木が植えられています。その1本1本 1房1房を手作業でお世話するのは障がい者支援施設「こころみ学園]の園生たちです。18歳から89歳まで 150名様々な知的障がいを抱えた園生が葡萄栽培や椎茸の原木栽培、ワインの仕込みや瓶詰め・ラベル貼り・などに携わっています。
1950年私の父,]川田昇は知的障がいのある子ども達が何もさせてもらえない事に心を痛めていました。
そこで勤務する市内の中学校に特殊学級を開設し生徒と一緒にウサギを飼ったり、野菜や果物を栽培していました。
彼らに「毎日やってもやり尽くせないような仕事」はないだろかと考えた末 2年がかりで急斜面の山を開墾。皆で600本の葡萄の苗木を植えました。
1969年その麓に[ころみ学園]を設立。知的障がいのある園生30名を受け入れ、農作業を通じて心身を育む「試み」を始めたのです。
あれはワイナリーがスタートし隣町に借りた葡萄畑からも本格的な収穫が見込まれる頃の事でした。一人の園生が学園に隣接する葡萄畑で何もしないで立っています。
私は思わず父にこぼしました。
「せめて石を拾ったり草をむしったりしてくれればいいのに」。すると父は言いました。
「あの子は風に吹かれる係だから、あれでいいんだよ。」その時は意味が分からず、彼は何もしてくれないと思っていました。
その年の秋、隣町の葡萄畑がカラスに荒らされ収穫直前の葡萄が全滅してしまいました。ところが不思議な事に、学園すぐそばの葡萄畑は無事でした。
風に吹かれる係の彼がいつも葡萄畑にいて、時々急に走り出したり、奇声を発したりしていたことで図らずも葡萄を守っていてくれたのです。
父がどこまで意図していたかは分かりません。
ただ 今になって振り返ると父は採算や生産性よりもワインづくりに関わる園生たち、すべての命に思いを注いでいたのだと思います。その後も彼らの草刈り作業がなくなってしまうからと除草剤は一切撒かず自然のままにしたことで園生も土壌微生物もいきいきと働く葡萄畑になりました。
助け助けられて暮らしていく事は地球に生きる生物、人間の基本なのかもしれません。
コロナ禍が広がるいま、10年前に亡くなった父の遺した言葉が心に浮かんできます。
「消えてなくなるものに、渾身の力を注げ」・・・人間は自然のごく一部です。
いま生きてある生物の命はやがて消えてなくなります。
しかしだからこそ私たちにできるのは、葡萄畑に生きる動植物や微生物、園生たちのように互いを補い合い、今日を精いっぱい生きることではないでしょうか?”
❤私のこころの「いいね!」ボタンが押されたところ
・「あの子は風に吹かれる係だから、あれでいいんだよ」
何という心の余裕のあるお父さんの言葉なんでしょう。しかも風に吹かれる係という言葉の何と優しく愛のある響きを感じる事でしょう。私の心はこのフレーズに完全に惹きつけられました。
❤今日も最後まで読んでいただきましてありがとうございました。
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