おばあちゃんの返事

おばあちゃんが家に一時帰国した日

おじいちゃんがおばあちゃんに謝りたいと言ってから ついにその日がやって来た。

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父「みんな これからわしが おばあさんに謝るから来てくれ」
さっそくおじいちゃんの号令がかかった。

父「おばあさん 今まで出てけって言って悪かった」

母「・・・・」

実はおばあちゃんの方も今日家に帰って来るにあたり どんな風か心配になって夕べ私に電話をかけてきていた。

そこでおじいちゃんの気持ちを伝えてはあった。しかし目の前で今までの人生の中で初めておじいちゃんの口から「悪かったね」と謝られておばあちゃんは返す言葉が見つからないでいた。

一方のおじいちゃんは 少し前から私たち夫婦に「おばあさんに謝る」事を言って練習していたので 思ったよりすらすら言葉が口から出てきた。

練習にはなかった頭まで下げて、おじいちゃんの告白は無事に終わった。

そして大仕事をやり遂げてすっきりした顔になった。

もう謝ったらおばあさんは帰ってきてくれるものだと信じていたおじいさんはおばあさんの返事を聞くという大事な次のステップをを忘れていた。

昨晩 おじいちゃんの変化や気持ちをを伝えた上でおばあちゃんの気持ちを聞いていた私は少し焦った。

私「おじいさんおばあちゃんの気持ちは聞かなくて良いの?」

父「えっ? おばあさんは帰って来てくれるんだろう?」

ここで初めておばあちゃんは口を開くことができた

母「もう 向こう(妹夫婦の所)での生活がいろいろ出来ているから・・来れないと思う」と

おばあちゃんは帰るつもりはないという自分の気持ちをはっきり伝える事が出来なくて、環境の事など言っている。

新しい病院の事・介護保険が下りてサービスの手続きをしていることなど・・

父「えりさん こっちでも病院はないのか?」

父は母の思いがけない答えに戸惑っている。

父「こんなに謝ってもだめなのか・・」

母は「うん」というように 頷いた。

3ヶ月のうちに二人の気持ちがこんなにも離れてしまっていたとは・・

いやそれまで 物理的には同じ空間にいたけどおばあちゃんの気持ちはとっくに離れていたのかもしれない・・

父の入院ということがなかったらもしかしたら今のように離ればなれにはなってなかったかもしれないが

その「入院」というのがもしかしたら神様のプレゼントだったのかもしれないねと夫と時々話をしている。

おじいちゃんの落胆の様子を見るのは可哀想だけど、確実に以前より 私たちに対する言葉には思いやりが感じられるし、自分の事はできるだけ自分でやろうとしている。

そのせいか 頭がはっきりしてきて 依存するような言葉をあまり言わなくなった。そして素直になっている。

そしておばあちゃんは 自分の意志を口に出す事を初めてしようとしている。

あんなに「娘がいい」と言っていたのに 「毎日暮らしているといろいろな事があるんだよ」と初めて親子の間の葛藤が生まれている事もここに来て初めて経験しているらしい。

妹もおばあちゃんの事を大事にしたいと言う気持ちから引き取ることになったのだが、今までは時々うちに来て親の事を思いやれる良い関係だったのが、いつの間にか「ストレスが限界に来ている」という言葉もちらほら聞こえてくる。

それを聞いた私は37年の同居のドラマが走馬灯の様に思い出され 我ながらよくやったねと自分を褒めてやりたい気持ちがした。

夫「(妹が)えりさんの気持ちが少し分かった気がする と言ってたよ」

私「みんなが初めての経験をしているね。やっぱり神様のお計らいかね」

その私が一番嬉しいのは、おじいちゃんと直接話が出来て心の交流が出来てきて、日々おじいちゃんの変わって行く姿が見れること。

お嫁ちゃんのYちゃんも「おじいさん 変わりましたよね」と言ってくれる。

昨日はチームお嫁ちゃんのK子ちゃんが 春休み中の孫のS君を連れて来てくれたとおじいちゃんから報告があった。

以前なら「K子ちゃんも忙しいから、もう来ないで良いよと言ってくれるか・・」などと言っていたのに今では毎週火曜日のK子ちゃんが来る日を楽しみにしている様子が伺える。

このドラマをとてもしらふでは見ていられないと思っていた私は実は昼間から一杯やっていた。

おばあちゃんの言葉を聞いてからのおじいちゃんのこわばった顔となすすべがない様子をしばらく見ていたが・・

ほろ酔いになっていた私は、思わずおじいちゃんと両手をつなぎその間におばあちゃんを抱きかかえてハグした。

一つの団子状態になってしばらくいるとおばあちゃんが二人の腕の中で泣いている。

夫が一言「また時々連れてきてもらったら良いよ」

こうやって時々会うくらいが良い関係でいられるのかもしれない・・

明日のおじいちゃんの様子がどうなっているか・・

でも大仕事をやった事にはちがいない。

これからおじいちゃんはこの現実を受け止めるという次の大仕事をして行く事になる。

私たちとの心の距離がまた近くなる予感がした。

 

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