86歳の懺悔(ざんげ)

わしはおばあさんに謝りたい

いつもの様に3人で夕食を食べている時だった。

突然おじいちゃんががこう言い出したのだ。

自分が入院している間におばあちゃんがいなくなったいきさつを初めて詳しく聞いてきた。
おばあちゃんの事はそれまで体調が思わしくないから妹夫婦のところで養生しているという説明をしていた。

だから落ち着いたらすぐに帰って来ると思って居たらしい。

でも最近部屋の中をよく見てみると どうもおばあちゃんの物が無くなっている事に気がついたとのこと。

さすがに何かおかしいと気づき、そうやって考え出すと悪い事ばかりが頭の中をぐるぐるし始めるようになったんだと・・

そんな中 自分で「出て行け」と言った言葉を思い出した様子だった。

父「出てけって行った事を 謝りたい・・ わしは一人では生きていけない」

私「・・お父さん 出てけって言ったの 覚えていたんですか?・・」

父「ああ たしかに言ったな。わしもお酒を飲んでいたか。なにかイライラしていたのかな・・」

 おじいちゃんはよっぽどおばあちゃんのいない生活が寂しくて仕方がないのだろう・

父が自分から謝るなんて事を口に出すことなんて想像もしていなかった。

それまで押さえていたおじいちゃんに対する感情が止められなくなって私は思わず言っていた

私「私だったら、もし旦那さんに「出て行け」と言われたら すぐ出て行きます」

それから おばあちゃんの話になった。初めて本当の事を知りたいと真剣な表情になっているおじいちゃん

自分も父親から暴言をはかれた事があった事など 昔の事など話し出す。

私「その時 お父さんは どう思ったんですか?」

父「一生 恨んでやると思った」

私「そうでしょう・・」と思わず私は言っていた

それがおばあちゃんの気持ちなんだよ!ともっと強く言いたい自分をやっと抑えた。

でも謝るのは 誰のため?。 自分が寂しいから? 謝れば全て解決しておばあちゃんが帰ってきてくれると思っているおじいちゃん。

実はこの話は今度の日曜日におばあちゃんが荷物の整理をしたいからと娘のAと実家に帰って来る事になったことから端を発した事だった。

それは一時帰国のように 用事を済ませたら二人はすぐ帰るという予定だった。

父「その時に 謝りたいから 少し時間を取るようにしてくれないか?」

私「それじゃあ、何かおばあちゃんの好きな物でも作って一緒にお昼ご飯でも食べるようにしましょうか?」

父「えりさん そうしてくれるか・・」

私「ところで お父さん おばあちゃんは何が好きなんですかね?。」

父「???」

おじいちゃんは何も知らない。おばあちゃんの好物。(おばあちゃんはタマネギの天ぷらやグラタンが大好きな事。
おじいちゃんがネギ類が嫌いなので何十年も食べられないで居た事。)

そして謝ったらおばあさんが帰って来ると思って居るおじいちゃんはもうプロ野球を二人で見たいと言っている。
父「おばあさんは ドラゴンズファンでなあ・・勝つとわーわー言っていたぞ」

でも私は知っている。

おばあちゃんはテレビがあまり好きではないこと。

難聴のおじいちゃんが爆音でテレビをつけている中で西部劇や野球を一緒に見ていたこと。

それをおじいちゃんはおばあちゃんもてっきり好きだと思っていたこと。

一緒におじいちゃんの話を聞いていた夫は一言

夫「おじいさん 自分でそれに気がついて 偉かったね」
 「おばあさんに 言ってみて 本人がどう思っているか聴いて見たら?」

父「そうするわ・・」

父が離れに帰った後、夫と二人で話した事・・
離ればなれになっているから、父からこんな言葉が出てきたこと。
「これが第一歩だね。」

夫婦が一番お互いの事をわかっていないのかもしれない。
安心して好きな事を言っているのかもしれない。
私も明日もし死んでしまうとしたら、 悔いのない人生だったと言えるのか?
おじいちゃんは私達に(というより 私に)大切な事を教えてくれているような気がしてきた。

おばあちゃんが出て行ったいきさつはこちらから見れます。→